インドール環が構築される。現代においても天然物全合成などで頻繁に用いられている非常に重要な反応である。 図1
注11
インドールの2位にインドール環と共役するビニル(エテニル)基を持つ構造を指します。
注4
イソキヌクリジン、テトラヒドロアゼピン、およびインドールが縮環したインドールアルカロイド型骨格を指します。生合成プロセスでは、デヒドロセコジンから環化酵素が触媒する分子内環化反応により、イボガ型骨格を持つ一連の天然有機化合物が合成されます。
注3
トリプトファンとセコロガニンから多段階の酵素反応を経て生合成される不安定な仮想中間体。生合成プロセスでは酵素によって安定化され、さまざまなインドールアルカロイドの共通中間体として機能します。
3 位に置換基を有するオキシインドール環の立体選択的な合成研究
注1
インドールは、6員環のベンゼン環と、窒素を含む5員環のピロール環が縮環した構造を持つ化合物。このインドール構造を部分構造として持つ天然由来の有機化合物群を、総称してインドールアルカロイドと呼びます。インドール構造で母骨格が構成されている場合、その化合物はインドールアルカロイド型骨格を持つとされます。
これまでのイボガ型アルカロイドの合成研究では、主に熱反応を用いたアプローチが検討されてきました。これに対して本研究では、光フロー合成プロセスを適用することで、テルペンインドールアルカロイド類の多環性骨格やそのアナログを自在に創り出す革新的な手法を開発しました。特に、神経伝達物質であるセロトニンのコンフォメーションを固定化した特異な三次元構造を持つイボガ型アルカロイド骨格は、オピオイド依存症治療に向けた次世代のシード化合物として非常に有望です。この基礎研究の成果は、生理活性天然物を構造モチーフとした創薬研究に新たな展開をもたらすことが期待されています。
注13
インドールを部分構造に持ち、トリプタミンのインドール5位にヒドロキシ基を持つ構造。脳内の神経伝達物質の一種で、この物質の過剰や不足が精神疾患に深く関わるとされています。
興味深いことに、ビニルインドール部位のメチルエステルを除去した基質2nに光照射を行うと、[4+2]型環化よりも[2+2]型の環化反応が優先的に進行することを見出しました(図2)。この発見により、高度に官能基化されたシクロブタン型コア構造を持ち、複雑な三次元構造を有する2つの新規な含窒素5環性骨格4(49%)および5(38%)を合計87%の高収率(2段階)で合成する手法を開発しました。また、環化前駆体の電子密度や立体障害を精密に調整することで、光励起による分子内環化のモードが劇的に変化することを明らかにしました。DFT計算によって、これらの環化前駆体がそれぞれ [4+2] および [2+2] 型の環化に適したコンホメーションに予め規定されていることが示唆されています。おそらく、室温での光活性化条件では、コンフォメーションの変化が最小限に抑えられるため、各環化前駆体におけるジヒドロピリジンとビニルインドール部位同士の空間的配置が、環化生成物3, 4, 5の形成比率に深く関与したと考えられます。さらに重要なのは、今回の光反応で構築した3系統の骨格3-5は、熱的反応条件では構築が困難であり、光励起によって効率的に合成できる点です。この研究により、ジヒドロピリジン部位の特異で多様な光誘起反応性を引き出し、天然物に類似した3つの複雑な多環性アルカロイド骨格を作り分ける革新的な合成戦略を実現しました。
【目的】ベンゼン環とピロール環が縮環した構造を有するインドールは、必須アミノ酸であるL-トリプトファンに含ま
東京大学大学院理学系研究科のGavin Tay大学院生、西村壮史大学院生(当時)、は、創薬候補として有望なインドールアルカロイド型骨格群を作り分ける光フロー合成プロセスを開発しました(図1)。本研究では、仮想生合成中間体であるデヒドロセコジン1を適度に安定化した多能性中間体2を設計し、これに光を照射することで、従前の熱による活性化では手にすることができなかった4環性のイボガ型骨格3を効率的に構築する革新的な合成手法を開発しました。光触媒や光増感剤が不要なシンプルな反応条件でマイクロフロー光化学反応プロセスを確立しました。報告例の少ない光[4+2]型環化反応を高い効率で進行させ、多様な基質に適用できることを実証しました。更に、デヒドロセコジン型中間体の電子状態や分子配座を精密に制御して、光[2+2]環化反応を優先的に進行させ、生合成では構築が困難な新規5環性骨格群4, 5の短段階合成を実現しました。
インドールはベンゼン環とピロール環が縮合した構造を取っている有機化合物です。
インドール環隣接炭素上での超高速求核置換反応の開発
インドール環は承認されている医薬品に含まれる351の環構造の中で、13番目に多く見られるため、インドール誘導体を効率的に合成する手法は創薬において極めて重要です。また、米国の製薬会社から出願された特許において掲載された合成反応をビックデータ解析した報告によると、過去40年間で最も多く利用された反応はヘテロ原子のアルキル化反応です。もしもヘテロ原子のアルキル化反応をインドール環に隣接する炭素上で進行させられれば、多様なインドール誘導体を簡便に合成できるものと期待されるますが、電子豊富なインドールは反応過程で望まない二量化や多量化を容易に速やかに起こすため、目的物を高収率で得ることはこれまで容易ではありませんでした。私たちはマイクロフロー合成法の利点を生かして、インドール化合物を20ミリ秒以内に活性化し、生じた活性中間体を100ミリ秒以内でアルキル化反応に用いることで目的物を95%の高収率で得ることに成功しました。本反応は極めて副反応が高速で進行するため、フラスコを用いて本反応を実施したところ、全く目的物は得られませんでした。